●「新規分野への進出」という新たな挑戦
 片岡製作所が持つ技術の活用を目指し、新しい分野への挑戦ができないか—。それが、業界を激震させる新たな装置が開発されるきっかけとなった「思い」だ。
 長きに渡る調査の末、白羽の矢が立てられたのが、ライフサイエンス分野。プロジェクトメンバーの一人S.Hが当時を振り返る。
「これからの日本社会、そして世界で発展が期待される分野の一つです。『社会貢献』を社是に掲げる片岡製作所だからこそできることがあるに違いない。それが我々プロジェクトメンバー共通の思いでした」
 レーザ技術を武器に、太陽電池や液晶の製造装置などを開発してきた片岡。新たに開始したこのプロジェクトでは、培ってきた技術が存分に活用されている。
「細胞プロセシング、つまり細胞培養という新規分野に進出することが、このプロジェクトの目的です。そのために必要な『細胞プロセシング装置』を完成させることが、我々に与えられたミッションでした」
 細胞培養のプロセスにおいては、不要な細胞の選別・除去という工程が必要になる。実はこの作業、訓練された作業者が手作業で行うのが当たり前だった。いかに負担が大きく、面倒で時間のかかる作業だったかは想像に難くないだろう。

「細胞プロセシング装置は、この工程の観察・識別・処理・回収というステップ全ての自動化を目指します。作業時間の大幅短縮はもちろんですが、量産体制の構築、作業の習熟度による個人差の排除という複数のメリットを提供できる画期的な装置になるのです」
 装置が完成すれば、万能細胞と呼ばれ近年注目を集めるiPS細胞の研究においても、大幅な時間の短縮が期待できるのは間違いない。これによって創薬や再生医療の研究が進み、多くの命に貢献できるだろう。
●困難の数々を仲間の力で乗り越える
 プロジェクトの始動は2014年8月。開発部に所属する、それぞれが得意分野を持った5人が主要メンバーに選ばれた。その他にも、部署内外から様々な分野のスペシャリストが加わることに。
「さらに、このプロジェクトは産学官連携で進めることになっていて、社外からも多くの力を借りることになりました。果敢に挑戦することが片岡らしさですが、今回は異分野への参入であり、社内外の数多くの技術者を巻き込んだ大掛かりな案件。だからこそ、我々の底力を見せつけるにはもってこいだと気持ちが奮い立ちましたね」

 S.Hは、プロジェクトの中で工学系の設計担当として観察に当たる顕微鏡ユニットと処理に当たるレーザユニットを手掛けることになった。レーザ加工機メーカーである片岡にはレーザ工学系について多くのノウハウがある。しかし、細胞観察に必要となる位相差顕微鏡や蛍光顕微鏡という専門性の高い顕微鏡は、完全に専門外。いきなり大きな壁に打ち当たったのだ。
「顕微鏡の構造についてイチから勉強が必要だと考え、市販の顕微鏡を分解して研究したり、関連する特許を読み込むなど、学ぶことから始めました。さらに、プロトタイプ機を使って実際の観察データを収集、ユニットの改良も進めたのです」
 一つクリアすれば、また新たな困難が訪れる。
「顕微鏡は装置に組み込まれますから、自動動作させる必要があります。そのために、光学系のみならず、機械設計の要素も多分に必要でした。私自身、当時は経験が少なく、本格的な自動動作機構の設計は初めてでしたから、試行錯誤の連続です。さらに、装置に組み込むには構造や取り付け位置など様々な制約が生じます。装置全体の構想を確立する作業に多くの時間を要すこととなり、作業は困難を極めました」
 こうした幾多の障壁を乗り越えられたのは、他でもない、仲間の存在があったからだ。社内の経験豊富な先輩を頼り、助言をもらうことで一歩ずつ前に進むことができたという。

●製品機の完成。そして次なる挑戦へ
 本格的なスタートから1年後となる2015年11月に、プロトタイプ機が完成。そして2017年2月には製品機が晴れて完成した。構想から3年余。プロジェクトメンバーが挑んだ“片岡の思い”は、一つの形となったのだ。
「このプロジェクトは、会社としても、個人としても、新しい分野への挑戦でした。だからこそ苦労の連続でしたが、学び続ける姿勢の大切さをあらためて学んだ、非常にいい経験となりました」
 特に顕微鏡ユニットの開発においては、社外に協力を求める場面もあったという。「そこで技術者同士、対等な議論の末に答えを導き出せたのは、自ら学ぶことをやめなかったからだと思います」とS.Hは力を込める。
 装置の販売開始は目前に迫っている。装置を納品した後も、顧客の要望に応えるアフターサービスや顧客の声を反映した装置改良など、やることはあるだろう。メンバーたちの挑戦はこれからも続いていく。
「今後も仕事の中で経験のない事態に出くわすことが多々あると思いますが、新たな学びの機会だと前向きに捉え、努力していこうと思います」
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